映画『オリエント急行殺人事件』(ネタバレ注意)
中学、高校の時、推理作家のアガサ・クリスティが大好きでした。
大人になったら、絶対にイギリスに行くぞ、と思っていましたが、
まだ実現していません。
ネタバレ注意と書きましたが、
クリスティの『オリエント急行殺人事件』の結末は広く知られています。
物語の展開を知らないのは、主役のエルキュール・ポアロのみ、という
おもしろい設定で映画を楽しみました。
主人公のポアロは、灰色の脳細胞を持つと称されるベルギー人名探偵です。
彼は、真実は正義か悪かのどちらかしかない、という信念のもと、
いつも難事件を解決していました。
しかしながら、今回ばかりは、勝手が違っており、
クリスティの連作の中でも主人公のポアロが苦戦する展開となっています。
オリエント急行の車内でアメリカの貿易商から身辺警護の仕事を依頼されましたが、
ポアロ自身が彼のことが気に食わず、引き受けませんでした。
結局彼は殺されてしまい、ポアロの推理がスタートします。
犯人は車内にいるはず、雪崩によって脱線し孤立した車両の中で、
警察が来る前に犯人捜しをすることになりました。
現代のような科学的捜査ではなく、現場の状況と個別の事情聴取のみで
事件の真相に迫ります。
外国のことなど、ほとんど何も知らないのに、
どうやって中学生の自分は『オリエント急行殺人事件』を
わくわくして読んでいたのか、とても不思議です。
今回の映画の中で、1930年代の人々の様子や服装や電車や食堂車の風情が再現されおり、
それだけでも一見の価値がありました。
今は、イスタンブールからロンドンまで、飛行機でひとっ跳びですが、
電車の中に泊まりながら移動した時代、あこがれます。
中国からヨーロッパまで鉄道の旅をすることは私の夢のひとつです。
(多分帰りは飛行機に乗ると思いますが…)
本作品は、リメイク作品です。
主演・監督のケネス・ブラナーのポアロ像と最新の映像技術によって、
新たな息吹が吹き込まれたように感じました。
日本の作家では、松本清張の作品がリメイク作品の楽しみを教えてくれています。
テレビドラマ『黒革の手帖』が記憶に新しいところです。
松本清張とアガサ・クリスティとの共通点は、
ものすごくドロドロとした重たい事件が起きるのですが、
淡々とした筆致でストーリーが進んでいき、
人間たちもあまり激しい感情表現をしないところです。
そういうものに読み手が入り込んでいくことは、ちょっとした努力と我慢が必要で、
テレビやマンガの入り込みやすさとは違う楽しみです。
だからこそ、映像作品にした時に、その立体感が違う魅力を生み出せるのだと思います。
本作では、いつも白黒はっきりさせるポアロが、
初めてグレーゾーンというものに対峙しなければならなくなった葛藤が描かれています。
人間と社会と法というもののわりきれなさは、永遠のテーマであることを感じました。
激しいスペクタクル映画(も好きですが)の次回予告の連続のあと、
こういった映画を観ると、ちょっとほっとします。
どうやらこのチームで『ナイル殺人事件』も製作されるようなので、楽しみです。
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